Addicted to them

ドラマ「ハイロイン(上瘾)」の原作本を、自身の中国語学習のため訳出し、学習記録として残していきます。鋭意、現在進行中。全部終わるまで、はてさて何年かかることやら。 (記事は徐々に鍵付きに移行中。パスはブログ・ツイッターで公開。)

【雨中溫暖的一幕(雨の中の温かな一幕)】

 放課後、突然雨が降り出した。強くはないものの、この季節の雨に打たれるととても冷たい。
 バイロインは駐輪場から自転車を押して出てくると、グーハイに言った。「お前はタクシーで帰れ。」
 グーハイは何も言わず、バイロインの背負うカバンを取って自分の背中に背負った。その意味は明らかだった。
 自転車が校門を出ると、グーハイは顔にかかる雨粒を手で拭い、バイロインに言った。「乗っけてって。」
 めったにない事に、グーハイは初めてバイロインの自分を乗せて帰るよう頼んだのだ。以前は晴れてても風が吹いてても、バイロインが疲れないようにと、何もためらうことなくバイロインを乗せていた。
 バイロインはとても喜んだ。“弟”が初めて弱音を吐いたので、兄のように振舞わなければと思った。

 道中の風は雨粒が混ざり冷たかった。
 グーハイは自分のコートを脱ぐと、バイロインをしっかりと包んだ。
 バイロインはこの時、グーハイが自分を乗せていくよう頼んだ理由が分かった。
「くるまなくていい。寒くないから、着てろ。」バイロインの顔全体が濡れていた。
 グーハイはバイロインの話を聞かず、自分の提げていたカバンをバイロインの頭の上にかざした。そして、温かい手でバイロインの顔の雨水を拭いてやった。優しくて甘やかすような動作が二人の心を温めた。バイロインの頬をグーハイの大きな手が何度もこすり、温かくなっていた。彼は初めてグーハイのこのような親密な行動を公の場で止めなかった。
 二人は沈黙していたが、心は通じていた。
 風が後ろから吹いてきて、グーハイの薄いTシャツを濡らしていた。この季節に風が吹くとき、学校に行くときは向かい風で、帰る時は追い風だったことをグーハイは思い出した。

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 グーハイは新しく建てた浴室でシャワーを浴び、傍に置いた服はびしょ濡れだった。
 バイロインは部屋から厚手の上着を探してきて、浴室の扉を叩いた。
「入ってこいよ。」グーハイが中から呼んだ。
 バイロインは直接服を横のフックに掛けると、淡々と答えた。「外は寒いから、洗い終わったらさっさと着ろ。」
 グーハイは身も心も温かくなり、水は排水溝へと流れていった。
「スイッチに問題ないかちょっと見てくれ。いつも冷たい水が出ないんだ。」
 バイロインはグーハイに背を向けて、「諦めろ!」と言い、出て行った。
 心地よい温水がグーハイの広い背中を流れ落ち、グーハイは思わず身に染みた。賢い“妻”を扱うのは簡単ではない。騙したくても騙されない。

 グーハイが入浴した後、バイロインが入浴する番になった。浴室の中は暖かかった。1ヶ月ほど前は、まだこの季節に家でシャワーを浴びるとは思ってもいなかった。当時は気温も高く、部屋の中で桶に入れたお湯で身体を拭いていた。大抵は近所の皆がいる近くの銭湯に行っていたが、安い分、人も多く、時間もかかった。
 それがグーハイと知り合いになってから、バイロインと家族の生活の質が劇的に改善したのは言うまでもない。
「大事にする。お前が失った10数年分の愛を、全部俺が埋めてやる。」
 バイロインはグーハイのずぶ寝れになった服を手に取ったとき、脳裏に突然あの時の言葉が浮かんできた。それを聞いた時は冷めた目つきで反応したが、実際心の中ではとても感動していた。彼はグーハイが嘘を言う奴ではないことを知っている。だからこそ、その思いを無碍にするのがつらかった。

 この世界で自分のことを愛してくれる人を気にしないでいられようか?
 バイロインは自分がますます依存してしまうことがただ心配だった。

 外の雨は上がった。グーハイは家の中を回っていると、祖母が部屋でクルミを割っているのを見かけた。不器用な手では一打で割ることは難しいようで、なかなか割れず、クルミは飛び散ってしまう。祖母はフウフウ言いながらクルミを拾い上げた。
「お祖母ちゃん、俺がやるよ。」グーハイはそう言うと、クルミを二つ手に取り、硬い殻の力を借りてガチャンと直接ぶつけて割った。祖母はまっすぐな目でそれを見て、この子は力が強すぎるからハンマーより手の方がいいのねと思った。
 グーハイは10数個のクルミを割り、祖母は横でそれを細かく剥いて皿の上に置いた。

 バイロインは風呂から出てきて祖母の前を通ると、ちょうどグーハイがクルミを掴んでいた。
「そこにハンマーあるじゃないか。なんで使わないんだ?」バイロインは眉をひそめた。「万一手を打ったら嫌か?」
 グーハイは笑い、こっそりとバイロインに尋ねた。「もし手を打ったら、お前は痛みを感じてくれるか?」
 バイロインはグーハイを横目で睨んだ。「手でやってろ!」
「残酷な奴め。」グーハイは恨み言を言った。

 バイロインは無視して部屋に戻って教科書を取ってくると、グーハイの懐に押し込んだ。
「早く歴史の復習をしろよ。もう3ヶ月も文系科目に触れてないのに、すぐ試験だ。赤点取って俺に恥かかせるなよ!」
 グーハイは嬉しくてバイロインの傍に寄り、自惚れて答えた。「俺が赤点取って、なんでお前が恥かくんだ?」
「暗記しろ!」バイロインは怒鳴った。

「1966年5月から1976年10月にかけて中国で起こった文化大革命は、毛沢東が誤って発動して主導し、林彪と江青率いる反革命集団に利用され、中国国民に大きな災難をもたらした政治運動です…」
 祖母はクルミを食べていたが、それを聞いて突然手を止めた。
「それは不可能よ。」
「え?」グーハイは不思議そうに祖母を見た。
 祖母は丸い目でグーハイをじっと見つめ、しっかりとした顔をした。「毛嘟嘟(毛むくじゃら)は誤ったりできないわ。」
「どうしてできないの?」グーハイはわざと祖母をからかった。
 祖母は真面目にグーハイに言った。「だって毛嘟嘟は一番真っ赤な太陽[1]だもの。」
 グーハイは大笑いし、バイロインも横で笑っていた。

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 既に夜10時過ぎ、グーハイとバイロインはベッドに座り、間に挟まれたパソコンデスクにグーハイは腕を支え、焦点を合わせるように向かいのバイロインを見つめていた。
「アヘン戦争が及ぼした影響は?」
 グーハイはじっと考える。「影響?確か4つ、いや3つだったかな。」
 バイロインの目つきが一層鋭くなる。
「3つだ。確かに3つだ。1つ目は社会の性質が変化したこと。2つ目は社会に矛盾が生じたこと。3つ目は…3つ目は何だったっけ?」
 パン!スチール定規でグーハイの手を打った。

 グーハイはさっと手を引っ込め、喚いた。「マジでぶつなよ。」
 バイロインは冷めた顔で「これで何回尋ねた?まだ分からないのかよ?」
 お前はシャワーを浴びて綺麗になったハンサムな顔を俺の前にさらして、俺に暗記しろと言うのか?
 バイロインは気が滅入った。こいつは神経が図太く、長い間やっても全然覚えない。すぐに試験が始まるんだ。グーハイの今のレベルで試験に合格できるなら、外でゴミ拾いをしている人全員、清華大学に行けるだろう。
「そうだ、1時間暗記しろ。」

「1時間?...」グーハイは心が沈み、枕に頭を埋めた。「何時だと思ってるんだよ。いつもならもう布団に入ってる頃だぞ。今日は雨に濡れたから頭も痛いんだ…」
「なら暗記しなくていい。今から問題出すから、1問答えられなかったら寝る時1センチ外側へずれろ、2問答えられなかったら2センチだ。もし全問不正解なら、父さんの部屋で寝ろ。」
 それはいい考えだ。
 グーハイはベッドから起き上がると、目の色を変えて言った。「もし全問正解したら、お前に乗っていいか?」
 バイロインは持っていた教科書でグーハイの顔を叩いた。

 30分後、グーハイはバイロインに教科書を渡した。
「よしいいぞ!」
 バイロインは1問1問問題を出した。難しい問題に焦点をしぼって出したが、グーハイは流暢に解答した。バイロインは問題を出せば出すほど、怒りが湧いてきた。こいつはバカな振りをしていたのだ。覚えているくせに、敢えて装って答えていたのだ。
 全問正解し、グーハイはついに電灯が消える瞬間を待っていた。

 二人は一つの布団の中に丸くなっていた。夜はますます冷えてきてが、この辺りは集合暖房[2]を提供していないので、各家庭でそれぞれ暖房をつけたりストーブをたかなければならない。石炭を節約するために、ある程度冷えてから火をつけている。
 グーハイは体を弓なりに曲げると、顔をバイロインの背中にくっつけ、指はシーツの上を這っていた。
「インズ、今日全部覚えたぞ。ご褒美はくれないのか?」
「お前は何歳だ?」バイロインは冷めた顔を向けた。「俺も全部覚えたけど、誰が褒美をくれる?もともとお前のための勉強だろ。むしろ光栄と思え。」

「俺がくれてやる。」グーハイの手がバイロインの胸を触った。「要らない。」
 バイロインは激しくグーハイの腕を押さえた。「要らない、やめろ!」
 グーハイは愛憎入り混じった目でバイロインを見つめた。
 バイロインはわざとグーハイの視線をそらして尋ねた。「なあ、お前は将来何がしいんだ?」
「俺は、商売がしたい。」
 バイロインは驚いた。「商売?お前の親父さんが賛成するか?お前に自分と同じ道を歩ませたいんじゃないか?」

「そうかもな。でも俺は従うつもりはない。」
「長い物には巻かれろよ。」バイロインは現実的な感想を伝えた。
 グーハイは考えるとイライラしたので、話題を変えた。「お前は?お前は何がやりたいんだ?」
「実を言うと、俺も商売がしたい。」
「やめろって。」グーハイはバイロインの手を強く握った。「お前みたいな賢い奴が競争相手になったりしたら、俺は終わりだ。」
 バイロインは笑っただけで何も言わなかった。

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[1] 一番真っ赤な太陽
 文化大革命当時の中国の最高権力者であった毛沢東は「赤い太陽」とたたえられていた(一言でいえば共産主義によく見られるプロパガンダですな)ので、真っ赤な太陽とは毛沢東のこと。
 お祖母ちゃんは、毛沢東=太陽との理解はあったが、太陽≠人間なので、人間のように太陽が誤ったりすることはできない、と言うことを言いたかったのでしょうか。チャイニーズジョーク!?
(お祖母ちゃんは美味くしゃべれないだけで、ボケてはいないと思うのですが、多々痴呆を感じるシーンがあるのは年齢の影響もあるのですかね?それとも、毛沢東主席万歳!のお考えなのかしらね?)

[2] 集体供暖(集合暖房)
 中国の東北部は、湯の通ったパイプのような暖房器具を利用して、蒸気や温水で部屋を温めるそう。集合(集体)とは、熱気会社を通して同時に街全体の暖房器具のパイプにお湯を提供(供暖)するためで、毎年その期間は国が決めているそうです。しかも、事前に暖気費を払っておかないと、途中から利用はできないらしく、暖気を利用できないまま冬を越さなければならないとかなんとか。
 この集合暖房は北京辺りは行われていないので、各家庭で暖房を用意する(日本と同じ)とのことですね。

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 第93話。
 文化大革命とかアヘン戦争とか、詳細はググってねw
 つづく。

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