Addicted to them

ドラマ「ハイロイン(上瘾)」の原作本を、自身の中国語学習のため訳出し、学習記録として残していきます。鋭意、現在進行中。全部終わるまで、はてさて何年かかることやら。 (記事は徐々に鍵付きに移行中。パスはブログ・ツイッターで公開。)

【老爸你結婚吧!(父さん、結婚してよ!)】

 バイロインが帰宅した時、大勢の人が家の周りにいるのが分かった。
 人々は皆、手に物を持ち、真ん中に向かって投げつけていた。投げながら罵り、立っている幾人かは既に投げ終えていた。バイロインは背が高いので、少し後ろの位置に立つと中の光景がよく見えた。一人の人が真ん中の空き地に横たわり、群衆に包囲され、彼に向かって野菜の切れ端やら生卵やら小石などが投げられていた。

「今日の夕刊を見なければ、こんな人がいたなんて知らなかったわ。」
「本当。どうしてこんなにろくでもないんだろう。」
「TVで見て、イライラしてご飯も食べられなかったよ。」
「こういうクズは他の人を傷つけないように、直接当局が閉じ込めておくべきだ。」
 バイロインは隣の胡同(フートン)の劉爺さんが新聞を手にしているのを見て、温和に話しかけた。「劉さん、その新聞見せてくれませんか?」

 劉爺さんは眼鏡を下げて、瞼を持ち上げるとバイロインを見て、新聞を手渡した。そして肩を叩いて慰めた。「おや、大変だったのぅ。帰ったらお父さんにくよくよするなと言いなさい。こんな人と比べるまでもない。お父さんがどういう人か、私たち近所の人は皆知ってるのだから。」
「そうよ。」張おばさんも近くにいた。「この間は少し言いすぎちゃったわ。後で謝りに行かないと。」
 バイロインが門を入った後も、外からはまだ罵声が聞こえてきた。
「今後ここに来るな。見つけたら殴るぞ。」
「もしゾウさんのお店で暴れようものなら、許さないからね。」
「出て行け!失せろ!」

 手にした『北京晩報』はすっかり皺くちゃになっていたが、丸々一面で今回の件が記事になっていた。急遽原稿を差し替えたような編集で、載っている写真も午後に撮ったようだった。TVのニュースも含め、ニュースの記事は通常段階的に選別されるので、社会のいざこざがその日のうちに報道されることは少ない。
 バイロインは、誇大に宣伝できるかどうかは運によるが、通常のマスメディアに取り上げられるかどうかは実力がないと無理なことを分かっていた。
 多くの中高年はほとんどネットをせず、ニュースや情報を得るのは新聞やTVである。そして、彼らはちょうどバイハンチーとも密に交流しており、彼らの考えや態度はバイハンチーの感情に左右されるので、バイロインは特にメディアに取り上げられることを望んでいたが…。

ーーーーーーーー

 グーヤンはリビングの隅に座ってズボンにアイロンを掛けながら、時折グーハイをチラッと見ていた。
 グーハイはTVでスポーツの試合を見ていたが、手には固く携帯を握りしめ、まるで迫力がある彫像のような顔で、強張った姿勢をずっと保持していた。
「ゴホンゴホン…」
 グーヤンは軽く咳をして尋ねた。「CMもそんな真剣に見るのか?」
 グーハイの目はこの時やっと画面に焦点を当て、それからリモコンを手にすると、一向に気にしない様子でチャンネルを変えた。

 グーヤンはそっと自分の携帯を取ると、グーハイにメールを送った。
 グーハイはようやく待ちに待った瞬間が訪れたかの如く、魂が揺さぶられた。彼はすぐ姿勢を正すと、厳かに携帯の画面をオンにし、その横顔には言葉で言い表せないほどの興奮が見てとれ、額から顎まで一直線に陽気な表情を発していた。
 すぐに彼はそれが空メールで、送信者がグーヤンであることに気づいた。
 顔は俄かに暗くなり、視線をゆっくりと後ろに移した。

「ふざけてんのか?」
 グーヤンはアイロンを掛けたズボンを脇に置き、慎重に積み重ねると、鋭い視線をグーハイに向けた。
「間違っただけだ。」
 グーハイは本当は咆哮を上げたかった。ここでただ電話を待っているのが気楽だと思うか?間違っただって?俺の感情を弄びやがって。
「電話を待ってるのか?」グーヤンはグーハイの傍に座って彼を見た。

 グーハイは携帯を脇に放ると、わざと冷めた表情を浮かべた。「誰からの電話だよ?」
「さぁ、知らない。」
 グーハイはトイレに立った。電話を待っていたがために、膀胱は爆発寸前だった。
 グーヤンはグーハイの背中を見て、口角を少し上げた。彼は弟を見るときだけ、少しの温かさをその顔に浮かべるのだ。
 グーハイが立って間もなく、彼の携帯が鳴った。メールの着信だ。
「お前が待ってたメールが来たぞ。」

 グーハイは洗った手の水滴を拭き取りながら、グーヤンの傍に置いてある携帯が点滅しているのを見て、一抹の不安がよぎった。
「言っただろ。俺は誰からのメールも待ってない。」
 グーヤンはグーハイの目の奥から湧き出る昂りを感じて、冷笑せざるを得なかった。お前の考えは、隠そうとしたって、小さい時から顔に出てるぞ。
「あっそ、なら見ることないな。」
 グーヤンはそう言うと、その携帯を自分の元に置いた。

 グーハイがグーヤンを見ると、からかっているような目で、冗談だと言う表情をしていた。幼い頃から、グーヤンはグーハイにとって災難をもたらす星であり、グーハイの心の防御ラインがどこにあるかを丹念に探り、そして一挙に突破するのがある意味趣味であった。グーハイは毅然として、リモコンを手に取るとチャンネルを変えた。その横顔は表情を崩さないように必死だった。

 5分後、携帯の着信音が再び鳴った。
 グーヤンはソファーにゆったりと腰掛けメロンを食べ、伸ばした両脚からは覇気が透けて見えた。
 グーハイの心はまるでサンドバックで、その2通のメールが2つの拳のように、彼に対して猛烈に攻撃をしていた。1分ごとに自分の経験値を超えていき、グーハイは気づいていなかったが、指はソファーのヘリを叩き、背中は鉄板の如くピンと張り、上下の唇は微かに開閉を繰り返していた。全ての前兆が、彼の焦燥感や不安、気の動転などの心情を浮き彫りにしていた。

 この膠着状況は電話が鳴った瞬間に打破した。
 グーヤンは携帯を手に取ると、その画面を見た。
「インズ…お前の“小さな兄貴”からみたいだぞ。代わりに出ようか?」
 グーハイは野生のヒョウが山林から飛び出したかのように、グーヤンの脚に向かって飛び込むと、携帯を奪い、自分の寝室へと向かった。ドアを閉めた時、この二人の間のラブロマンスドラマのような展開はピークに達し、閉幕した。

 バイロインは2通メールを送ったが、グーハイから返信がなかったので、すぐ後に電話をかけた。ようやく繋がったと思ったら、「もしもし」の言葉すらなかった。
 バイロインは話そうとするも喉がつかえた。
 二人はしばらく沈黙していたが、グーハイが先に口を開き、口調は冷たく硬かった。
「何だ?」
 バイロインはナツメの木の下に立ち、尻尾を振るアランを見ながら尋ねた。「記者はお前がよこしたのか?」

 グーハイは冷たく答えた。「俺じゃない。」
「本当にお前じゃないのか?」
「何の事だ?何も聞いてないのに、記者に何を連絡するんだ?」グーハイの口調はずる賢かった。「お前は能力があるだろ。自分で投稿して、人に拡散してもらって、大きな話題になって、その傑作が紙面の至る所に取り上げられた。メディアは当然行くだろ。それが俺と何の関係がある?」
 バイロインはそれを聞いて、こいつは相変わらずだと思った。
 鋼の体に豆腐の心を持つ人の典型だ。

「お前に言わなかったのは、お前の身分が特殊だからだ。こんな事に巻き込みたくなかったし、お前を目立たせたくなかった。こんな下らないことで、マイナスの影響を与えたくもない。」
「目立たせない?ならお前は目立ってもいいのか?俺たち二人にどんな身分の区別がある?お前の母親は俺の母親じゃないのか?俺の父親はお前の父親じゃないのか?」
 バイロインはしばらく沈黙し、淡々と答えた。「俺の母親はお前にとっておばさんで、俺の父親はお前にとっておじさんだ。」
 グーハイの心はまるで何かにぶつかっているようだった。
「俺たちは、今のこの身分を認めていないだろ?」
 グーハイはやり込められた。

「俺はこの問題を一人で解決できるから。」
 バイロインの声は携帯を介して伝わるため、鋭さが弱まり、かえって細やかな感情を聞き取れた。
「お前の能力を疑ったことはないさ。時々俺よりも賢いし、冷静だし、俺が対応するより優れていることだって認めるよ。でも、隠すことじゃないだろ?ヨウチーやヤンモンでさえお前の計画に参加してるのに、何で俺だけ除け者なんだ?俺はスレッドを上げたり、管理者に連絡したり出来ないとでも?まさか、お前の目には、俺は悪人の父親を笠に着て悪事を働く二代目にしか見えないのか?俺がなぜ従姉に頼んだか分かるか?お前を尊敬しているから、お前に無駄な苦労をさせたくないからだ。本当ならもっと早く手を貸したかった。孟建志はとっくに居なくなってただろう。バイロイン、お前と俺は今、地位も身分も対等だ。お前は一人で解決できると思ったんだろ?お前は最初から今まで俺との間に壁を作ってる。その壁はまだ越えていけるのか?」
 今回、グーハイが電話を切るまで、バイロインはずっと黙っていた。
 
 バイロインが部屋から出てくると、バイハンチーは庭でゾウおばさんの子どもと遊んでいた。
「父さん。」
 バイハンチーは立ち上がると、深い想いと優しさに満ちた目で、バイロインの方を静かに見つめた。
「お前は大きくなったな。これから何でもできる。父さんは歳とってきて、お前みたいにはもう無理だな。」
 バイロインは笑って言った。「父さん、結婚してよ。」

 バイハンチーの目は一瞬、脳が機能しなくなったかのようにバイロインの顔に焦点が合わなかった。
「結婚しな。」バイロインは再度言った。
 バイハンチーの目に突然水滴が溢れた。
「息子よ、ごめんな。父さんはお前に10年以上も辛い日々を送らせてしまった。」
「俺たちはどっちもどっちだよ。俺だって10年以上父さんの足手まといになってたんだ。だから、もう新しい人生を生きるべきだよ。」

 バイハンチーはバイロインを抱きしめた。
「インズ、言うまでもなくどんな時も、父さんの人生で一番大事なのはお前だ。他の誰と比べるまでもないんだ。」
 バイロインは目の奥の痛みを隠して、バイハンチーの肩を叩くと、軽い口調で言った。「感傷的にならないでよ。結局は父さんにうんざりしてるってことなんだからさ。父さんが結婚してくれたら、俺はやっと自由になるだろ。やりたいことをして暮らせる。俺は俺の新生活を始めるんだから。」
 一粒の熱い涙がバイハンチーの目尻からこぼれた。それはまるで10年以上寝かせた酒のようだった。

ーーーーーーーー

 第107話。
 孟建志退治はこれで終わり?
 罵声浴びせられて、石投げられて、前近代かよ?(まぁ、中国ですから。)
 メディアもそんな巷の些末な問題扱ってる暇があるんだったら、キンペー(習近平ねw)やら共産党の膿の一つでも取り上げなさいよw(殺されちゃう。)
 ということで、次回は結婚式かな。
 え、まじで、孟建志は退場?
 つづく。

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