Addicted to them

ドラマ「ハイロイン(上瘾)」の原作本を、自身の中国語学習のため訳出し、学習記録として残していきます。鋭意、現在進行中。全部終わるまで、はてさて何年かかることやら。 (記事は徐々に鍵付きに移行中。パスはブログ・ツイッターで公開。)

【只因為那是他(彼だからという理由だけ)】

 化学教師はそう言ってグーハイを再び引っ張ると、もう少しでグーハイに押されて転倒しそうになった。
「あなた…あなたって人は…」化学教師の目は真ん丸く、怒りの炎が灯って見えた。「逆らう気?私は教師よ!」
「誰を叩こうと構わないが、こいつだけは叩かせない!」

 化学教師は怒り狂ったライオンのように遮二無二立ち上がると、棒を取りグーハイの体に向かって投げつけた。グーハイは棒を片腕で持ち上げると、すんなりと手で握った。化学教師は棒を抜こうとするも、全く引っ張ることができず、反して自分がコマのようにグルグルと回った。
 グーハイは少しの力で棒を脇に抱えると、その視線の奥には微かに支配的な色が見えた。
「先生に二つの選択肢を与えます。俺を叩くか、どちらも叩かないかです。」
 化学教師はハイヒールを激しく踏みつけ、甲高い声を出した。
「誰に選ばせるって。正気?私は教師です。あなたにはどんな資格があって、私に条件を突きつけてるの?私は今から彼を叩くわ。何をどうして叩こうと、それは私の、教師の権利だからです!」

「選ばないってことですね。そりゃ愉快だ。」
 グーハイの暗い瞳が急に静かに潜むと、棒は化学教師の目の前で台風のように激しく弧を描き、隣の机にぶつかった。ボキッと言う音と共に棒は2つに折れ、折れた片方の破片が床に散らばった。もう片方は大きな印を作るかのように、隣の机の上でジグザクに回っていた。
 化学教師は呆然としていた。
 グーハイはバイロインの肩に手を置くと、肩で風を切るようにすぐさま立ち去った。
「戻って来なさい!」化学教師は細いハイヒールを踏んで追いかけながら、周りを気にしない様子で廊下に向かって叫んだ。「この悪魔め!成績がいくら良くたって、こんなことしたら社会のクズよ!」

ーーーーーーーー

 校舎を出るとグーハイの顔はまだ暗かった。
「クソ女め。ずっと前から嫌な奴だと思ってたんだ!」
「お前なぁ…」バイロインは何と言えばいいか分からなかった。
 グーハイはバイロインの鼻を突つくと警告した。「もう俺に言うなよ。叩かれたなんてことを言うな。お前の口からそんなことは聞きたくない。分かったか、もう、絶対に言わないでくれ。」

 バイロインはグーハイが毛むくじゃらな虎のような凶暴な表情を見せたのを思い出し、突然笑い出した。
「実を言うとな、大満足だった。」
 グーハイは一瞬呆然としたが、すぐにバイロインの方を振り向いた。そう言えば忘れていたが、元を正せば携帯を盗むというのはこいつのアイデアじゃないか!歯を剥き出して笑いながら、大きな手でバイロインの顔をこねくり回した。「この野郎め!」

 2人の悪ガキはもう授業に戻る気力もなく、壁を越えて学校を出ると、軽食の屋台街で何か食べようとぶらぶらした。通りを歩きながらタンフール(サンザシ飴)を手に持ち、食べながら化学教師を嘲笑していた。彼女の息を切らしながら追いかけて来た便秘の時のような表情を思い出すたび、ベッドの上での彼女の動きを想像しては爆笑し……
 そんな馬鹿げたことを話していると、2人は周りの人々の存在も気にならなくなるほど、憚ることなく通りを楽しく歩いていた。

 北京の街全体を夜が覆う頃、町角の花屋から『愛の讃歌』のBGMが流れていた。2人の脚はその曲のリズムに合わせて上げたり下ろしたりしながら歩き、背の高い2人の影は街灯に照らされ長く引き伸ばされていた。暗い角に差しかかった時、グーハイは突然バイロインを引っ張ると、周りに誰もいない間、キスをした。
 その後、頭を離すと、舌の先端で口の端を舐めて、そっと言った。「甘っ!」
 それはタンフールの砂糖の滓だ。甘くなくないわけがなかった。

 グーハイのここ10年の人生において、今この時のように彼を溺れさせるような喜びは一切無かった。普通の会話、単純なアイコンタクトですら、彼の心に何とも言えない心地良さをもたらした。ただ黙って彼と一緒に道を歩いているだけでも、彼であると言う理由だけで、その道に瞬時に輝きが放たれるのだった。
 おそらく彼の人生における初めての恋愛が、始まったばかりだった。
 
 灰色の煉瓦と赤い瓦屋根は徐々に遠ざかり、周囲は鉄筋コンクリートでできた高層ビル群に置き換わっていった。通りは広くなり、道行く人の足取りは速く、2人はただぶらぶら歩きながら、静かに車や人々の流れを追っていた。
 二人の美女が並んで通り過ぎた。
 バイロインは口笛を吹き、グーハイはチンピラみたいに下品に美人と叫んだ。
 二人の女性はお互いをちらっと見ると、恥ずかしそうに手を引っ張って、駆け足でバイロインとグーハイの傍から離れていった。

 しばらくして、別の女性が前方から歩いてきた。
 グーハイは興奮しながらバイロインの肩を叩いた。
「お前はどうよ?」
 バイロインはちらっと見ると、もう少しで前の電柱にぶつかりそうになった。この女性は身体ががっしりと逞しく、表情は凄みがあり、まるでブルドーザーのように大きな動作で歩いていた。
「お前は何であんなのが好きなんだ?」バイロインは全く理解不能だった。

 グーハイは、「しなやかな女は、ヤッても気持ち良くない。」と口に出した。
 バイロインはグーハイを一瞥するも何も言わなかった。
 グーハイは再びバイロインの耳元で囁いた。「もう誰とヤッてもお前以上に気持ち良くねぇけど。」
 バイロインの表情が一変すると、グーハイの首根っこを掴んで、激しく路上の看板に押しつけた。グーハイの手は看板の縁を掴み、笑いが止まらなかった。

 二人は騒ぎながらも、結局グーハイの住むマンションの下に着いた。
「ずっと歩いていたから、さっき食べた物は全部消化しちゃったな。」グーハイは立ち止まった。
 バイロインも深く同意した。
 二人は隣のコンビニまで歩き始めた。
 グーハイが尋ねた。「何か食いたいものある?」
 バイロインは少し考えた。「鍋巴(スナック菓子の一つ)を2個。」
「何味?」
「チキン。」

 グーハイは中に入ると、棚に探しにいくのが面倒だったので、直接女性店員に言った。「肉味の鶏巴(陰茎)、2つください。」
 女性店員は一瞬戸惑った後、3秒経って、顔から耳元まで真っ赤にした。
 グーハイは彼女が聞き取れてないように思い、もう一度大きな声で繰り返した。
「肉味の鶏巴を2つください。」

 バイロインは腹を抱えて外に出た。
 店主は口が痙攣するくらい笑った。「なぁ君、それ本当にあると思うかい?」
 グーハイはようやく自分が間違ったことを言ったことに気づき、開き直った顔で棚に行き鍋巴を2袋といくつかのスナック菓子を無造作に手に取ると、会計をしてすぐに出て行った。
 
 バイロインは笑いながら地面にうずくまり立てなかった。
 グーハイはバイロインを憎らしく睨むが、どんな顔していいか分からなかった。
「そんなにおかしいかよ?」
「グーハイ、言っとくけど、これは絶対報いだ。一日中ずっと変なことを考えているから、無意識に口に出たんだろ?ハハハ……」
 グーハイは図々しくも思った。「クソっ、ちんぽ食べてやる。今晩お前のちんぽを食ってやるからな。」

ーーーーーーーー

 二人はエレベーターの中でも馬鹿みたいに笑っていた。バイロインの癖みたいなものだが、笑わない時は笑わないが、一度笑い出すと簡単に治まりようがない。エレベーターのドアが開くと、バイロインの足取りは軽かった。
 グーハイは鍵を取り出した時、ドアが開いていることに気がついた。
「鍵かけ忘れか?」バイロインが尋ねた。

 グーハイの顔色が変わると、直接ドアを開き、中のライトが点灯しているのが分かった。バイロインも異常を感じ、笑顔を徐々に潜めると、グーハイと共に中に入っていった。
 部屋の中からは微かな淡い香りが漂い、散らかっていたスリッパは靴箱に整然と並べて置かれ、居間はまるで誰かに片づけられたようにどこも綺麗で、ダイニングテーブルの上には花が挿してあった。
 
 寝室から一人の影が出てきた。
「おかえりなさい。」
 ジャンユエン(バイロインの実母、グーハイの継母)は微笑みながらバイロインとグーハイを見つめた。
 二人の顔の温度は瞬時に下がり、ほぼ同時に口を開いた。
「何しに来た?l
 
 ジャンユエンは動きを止めて、優しく答えた。「お父さんがあなたたち二人がここに居るのを心配しているのよ。だからちょっと見て来いって。」
「ここの鍵はどうしたんだ?」グーハイが再び尋ねた。
「あぁ、お父さんから預かったの。この家の鍵は二つあって、一つはあなたが、もう一つは彼が持ってたのね。その方が都合いいでしょ。もし必要なことがあったら、いつでも行けるし。」

 グーハイは浮かない顔をした。「来るにしても、前もって知らせるべきじゃないのか?」
 ジャンユエンは申し訳ない顔をして笑った。「あなたの携帯番号も分からないから、連絡取りようがないでしょ。でも心配しないで。居間を簡単に整頓しただけで、あなたたちの物は一切触ったり動かしたりしていないから。」
 グーハイはもう何も言わず、服を着替えるために寝室まで歩いていった。

 ジャンユエンはバイロインの手を掴むと、ソファーに引っ張って腰掛けた。
「インズ、聞いたけど、お父さんとあの女結婚したんですって?」
 バイロインは冷たく答えた。「だから何?」
 ジャンユエンは愛おしくバイロインを見た。「あなたはどう思っているの?あの女には子どもが居るのよ。あなたを大事にしてくれると思う?お父さんまで、結婚するやあなたを追い出して……」

「自分から出たんだ。」バイロインはジャンユエンの話を遮った。「あんたは俺と会うたび、まず父さんを貶すよな?まさか父さんを下に見て、自分が偉くなったつもりか?」
「インズ、誤解よ。母さんはあなたを心配しているの。あなたは17歳だけど、まだ子どもなの。放っておけるわけないでしょ。昔は母さん、泣く泣くあなたを手放したけど、今ならあなたの力になれるわ。ねぇ、母さんと来ない?母さんはずっとあなたに償う機会を待ってたのよ。」

 ジャンユエンはそんな心を揺さぶるような話を口にしたが、バイロインはただ一言を返しただけだった。
「遅いよ。」

ーーーーーーーー

 第110話。
 お久しぶりです。生きております。暑いですね。
 気づけば梅雨です。夏が来る、真っ白な馬に乗った王子様が...。
 佐々木朗希投手の完全試合も、遥か昔のようであります。
 この間、北海道に行ったり、大阪に行ったり、ミスチルのライブに行ったり、遊んでばっかりw
 落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。
 ムラムラします。鶏巴食いたい、舐めたい、しゃぶりたい......
 つづく。

コメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. たろきち
    • June 18, 2022 12:34
    • お久しぶりです!
      楽しみにしていました。
      いくらでも待ちますので
      続けてくださいね!
    • 0
      crosuke

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    • 2. 小野田
    • April 09, 2023 02:06
    •  WBCも終わり、プロ野球も大リーグも始まりました。ロッテは吉井監督になり投手王国になることでしょう。ちなみに私は、西武ファンです。
       翻訳することは、大変な作業だと思っています。無料で読まさせていただき
      泥棒みたいだなと思い感謝しております。翻訳を読むことで漢字の勉強にもなり中国文化のことも説明して下さり興味深く、小説を楽しんでいます。
       お仕事もあり多趣味なあなたにとって、学習記録として残すためとはいえ、
      時間の配分が大変だと思いますが、再開されることを期待しています。コロナでの生活で私を癒してくれたのは、「ハイロイン・オリンピック・大谷選手・
      映画」でした。ありがとうございます。
    • 0
      crosuke

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