Addicted to them

ドラマ「ハイロイン(上瘾)」の原作本を、自身の中国語学習のため訳出し、学習記録として残していきます。鋭意、現在進行中。全部終わるまで、はてさて何年かかることやら。 (記事は徐々に鍵付きに移行中。パスはブログ・ツイッターで公開。)

【你統治不了他?(彼を支配することはできませんか?)】

 夕飯の前、バイハンチーはずっとバイロインの表情を見ては、しきりに後悔していた。どうして承諾してしまったんだ?どうして人を傷つけるような事すら言えないんだ?覆水盆に返らず。一時の喜びのために、大事な息子を怒らせてしまった。
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは部屋で食べさせるか、3人で外で食べるかするよ。」

 バイロインの表情は一層悪くなった。「どうしてお祖父ちゃんとお祖母ちゃんを一人で食べさせるんだよ。お祖父ちゃんが一人で魚をほぐせるのか?誰かを追い出すとしても、俺たちじゃないだろ。あいつに箸とお椀を持たせて自分ちで食ってもらえばいい。ここで食っていってもらう必要はないだろ。」
「彼はお客さんだぞ。どうしてそんなことができる?」
 バイロインは背を向けてお椀を取りに行くと、バイハンチーを相手にしなかった。
 バイハンチーは溜息をついて、祖父母の部屋へ行くと、祖母に話をしないように、祖父に食事の時はゆっくり食べてむせないように気をつけるよう言い聞かせた。

 4人家族にグーハイを加えた5人が、窮屈に正方形のテーブルを取り囲んだ。
 テーブルの上には料理がたっぷりあった。魚の煮込みのほかに、バイハンチーが炒めた料理もあり、見た目は悪いが、味は悪くはない。
 ただ、この食事が家族にとって最も静かな食事であった。
 本来しゃべるのが大好きな祖母は、息子の出した禁止令のせいで、一言も話すことができない。くりくりした小さな目で、こっちを窺ってはあっちを窺って、慎重な顔をしている。しかし、彼女は孫の友人を気に入ったのか、しゃべることができないかわりに、グーハイの皿に料理を取ってあげては微笑んでいた。

 グーハイもバイロインの祖母のことを気に入った。彼が6歳の時に自分の祖母は亡くなり、唯一の印象は櫛で綺麗に梳かしたつやつやした髪の毛であった。祖母がたとえ生きていても、バイロインの祖母のような優しさは無かっただろうとグーハイは思っていた。
 その優しさに敬意を表すため、グーハイもバイロインの祖母の皿に魚を一切れ入れてあげた。「お祖母ちゃんが食べてください。僕は自分で取れますから。」
 祖母はしきりに頷いた。彼女は自分の感謝の気持ちを伝えたいのだが、しゃべることができないので、ただ「あぁあぁ」というやりきれない声しか出せなかった。
 グーハイの表情が徐々に変わると、バイロインの祖母とバイハンチーが何か話している隙を見て、小声でバイロインに尋ねた。「お前のお祖母ちゃん、口がきけないのか?」
 バイロインはもう少しでお椀の中のご飯をグーハイの頭にかけるところだった。
「お前のお祖母ちゃんこそ口がきけないんだろ!」
「俺の祖母ちゃんはとっくに死んだよ。」
 
 バイロインは魚を取ろうとしたところ、祖父が今か今かと自分を見ていること気付いた。やむなくグーハイのことは無視して、先に魚を祖父に取ってあげた。もともと祖父は自分で魚の骨を取れるのだが、大抵上手くできず、ほとんど箸で刺して押さえて取っている。祖父は舌の力が弱くなり、飲み込むこともとても大変で、詰まってしまうと口の中の物を咳で噴きだしてしまう。そのため客に不愉快にさせてしまうことを心配し、祖父はずっと気をつけて食べていた。
 グーハイは、バイロインがずっと祖父母の世話をしていてあまり食べていないことに気付くと、少し感動した。彼は魚を自分の皿に入れると、バイロインがするように魚の小骨を取り除き、バイロインの皿の中にそれを入れた。グーハイがこのような事をしたのは初めてである。彼はかつて他人に、もし自分が魚の骨を取ってあげる女性がいれば、その人こそ結婚相手にふさわしいだろうと言ったことがあったが、残念ながら、事もあろうか初めての人は男だった。
 
 バイロインは祖父に魚をあげたばかりなのに、自分の皿にまた一つ魚があることに気が付いた。
 グーハイは口にしなかったが、バイロインも誰が置いたのか分かっていた。
 食事を始めてから今まで、バイロインはずっと息が詰まりそうだったが、この時に及びようやく彼の気持ちはちょっと晴れてきた。
 グーハイは視線を時折バイロインの方へ向けた。
 バイロインは二口ほど食べると、眉をひそめてグーハイを見た。「まだ骨がたくさんあるぞ。へたくそ!」
 クソっ……グーハイは心の中で口にした。お前は本当に貧しい農民の坊ちゃん人生だ。このグーハイ様は前世にお前に借りでもあるのか?お前に何かしても、なんで苦労して疲れるだけで、感謝もされないんだ?
 バイロインはグーハイが何を考えているか分かり、心の中で思わず笑った。

 食事はほとんど終わり、祖父が咳き込むまでずっと穏やかであった。
 バイハンチーは顔色が変わり、祖父に手を貸そうとしたがすでに遅かった。祖父の咳はむせていることを裏付けた。口の中の御飯や魚が噴きだして、テーブルに置かれた料理が台無しになってしまった。
 バイハンチーの表情は硬く、幾らかの責任を感じていた。「ゆっくり食べなかったの?」
 グーハイは、バイロインが頑なに自分をここで食べさせないようにしていた理由が分かった。
 この“事件”が起きる前、バイロインの心にはずっと懸念があったが、今は反対に穏やかになった。彼は落ち着いて立ち上がると紙を取って、祖父の口周りをゆっくりと拭いてあげた。その間グーハイを見ることはなかった。身内に対して向けられる他人からの異様な視線を見たくなかったのだ。たとえグーハイが次の一口をもう食べなくても、バイロインは彼に釈明することができないだろう。

 バイロインは祖父のシャツの襟を綺麗に拭き、改めてご飯をよそってあげようとした時、手が伸びてくるのが見えた。
「先にお祖父ちゃんに水を飲ませてあげなよ。」グーハイの手にはコップがあった。
 バイロインは何も言わずに、受け取った水を祖父に手渡した。

 その後の時間、グーハイは自分から話のきっかけを作り、バイハンチーや祖父母とおしゃべりを始めた。祖母は楽しそうに聞いていると、だんだん興奮してきたのか、両頬はずっと紅潮していた。彼女は本当に話したがっていて、「好hǎo」ということさえも我慢させられているように感じた。
「あなた方の孫は本当にすごいですよ。クラスの誰も彼に逆らったりしませんよ。」グーハイは子供をあやすように、祖母に向かって親指を立てた。
 祖母は目を急に大きく見開くと、驚いたようにグーハイを見つめた。「あなたでさえも彼を支配することはできないのかい?」
「えっと……」祖母は自分が話してしまったことに気付くと慌てて両手で口を押さえ、バイハンチーをじっと見つめた。
 グーハイは祖母の可愛らしい様子に笑わされた。
「はい。俺も彼を支配することはできません。」



 第38話。
 伊東家の食卓、ならぬ、白(バイ)家の食卓。
 顧海はその出自によらず、本当にいい子だよね。 
 お母様の育て方が良かったのね。
 ちょっとコントロールできないところがあるけど(お母様が早くに亡くなられたこともあるのだろうけども)、きっとそれはこの先、白洛因が補っていくことになるのでしょう。
 たぶん!?
 つづく。

コメント

 コメント一覧 (1)

    • 1. Sayurin
    • August 14, 2020 00:27
    • ものすごく生活感あふれる場面で、ドラマとは違った良さがありますね。
    • 0
      crosuke

      crosuke

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