Addicted to them

ドラマ「ハイロイン(上瘾)」の原作本を、自身の中国語学習のため訳出し、学習記録として残していきます。鋭意、現在進行中。全部終わるまで、はてさて何年かかることやら。 (記事は徐々に鍵付きに移行中。パスはブログ・ツイッターで公開。)

【怎麼偏偏砸他?(事もあろうに何故彼に当たったのだろう?)】

 今夜の月は丸い。明かりはもう消えていたが、部屋の中がまだ明瞭に見える。二人は1つのベッドの上で窮屈に横になり、グーハイは窓際のほうで寝ていた。頭を横に向けると、月が木の枝に掛かっているのが見えた。
「もう2日すれば中秋(旧暦8月15日)か。」バイロインが口にした。
 グーハイはバイロインの方へ目線をやった。月明かりが彼の顔半分を照らし、顔の曲線を和らげていた。いつもの冷たく鋭い眼がこの時ばかりは休んでいるようで、まばたきもゆっくりで、しばらく部屋の隅を静かに見つめていた。

「今日、担任は何の用だったんだ?」
「お前ん家は8月15日はどう過ごすの?」
「……」
 同時に2つの質問が出され、少し気まずい空気が部屋をまとった。
 グーハイはバイロインの返答を待ちながら、頭の中で返答を考えていた。自分のこの身分を隠していることは本当に不快だった。自分の今の境遇を表すならば、1つの嘘が無数の嘘になっていく、ということだ。いつか暴かれないか恐れていた。バイロインが手掛かりを見つけ、白状することになった時、結果は間違いなく深刻なものになるだろう。
 まして、ここで一生飼い猫になることはできない。
 
 たとえ自分が父親のもとへ戻らなくても、グーウェイティンは取り戻そうとしてくるだろう。もし反抗しなくても、身分はすぐにばれてしまう。もし反抗したとしても、騒がしいほどに噂は広まり、身分は徹底的にばれてしまうだろう。
 だからどんな道を行っても、それは全て破滅への道だ。
 一刻も早くバイロインの信用を獲得し、彼と揺るぎない革命的な友情を築かなければならない。そして、真実をゆっくりと彼に浸透させなければならない。

「うちは中秋は特に何もしないな。せいぜい月餅を買うくらいか。」
 バイロインは月明りでグーハイを見ると、グーハイの身体から出る一種独特のオーラのようなものに気付いた。それは、貧しい庶民の家庭では醸し出せないものであった。
 グーハイは片方の腕に頭をのせて横を向き、興味深くバイロインを見た。
「お前ん家は何かするのか?」
 バイロインはかすかに笑いながら「月餅を食べるだけじゃないかな。」と言った。
 グーハイはバイロインの笑顔を見て、きっと月餅を食べるのが好きなんだなと思った。

「どの餡の月餅が好き?」
「蛋黃蓮蓉(卵の黄身とハスの実の餡)の。」
「何で?」グーハイは戸惑った。「甘いようなしょっぱいようなで飽きるだろ。」
 バイロインはグーハイを睨んで、「じゃあお前はどの餡が好きなんだよ。教えろ。」と言った。
「魚の餡。」
「お前ん家の月餅は魚の餡が入ってるのか?」バイロインは驚いて、泣きも笑いもできなかった。「なんで羊蝎子(羊肉。ジンルールーの好物。)の餡って言わないんだよ。」
「羊蝎子の餡なんて臭すぎるだろ。」
 バイロインはこらえきれずに笑い出すと、月の光が彼の笑顔を照らし、誰かの心を酔わせた。

「バイロイン。」
「うん?」バイロインは首をひねってグーハイを見た。
 グーハイは月の光を背にしていたので、目の輪郭は一層暗く深く引き立たせていた。
「実は俺、こんなんじゃないんだ。」
 バイロインは冷静に答えた。「じゃあ、どんななんだ?」
「俺は一人の真面目な人間なんだ。」
 前提として“お前に出会う前は”という何文字かを補うのを、グーハイは忘れた。

「グーハイ。これからはそういう話はするな。お前がもし“自分は女だ”と言っても、信じられるかもしれない。」
「……」
 何度も呼吸をして、グーハイはやっとこの話を消化した。バイロインは既に背を向けていたが、このまま寝かせてはならないことに気付いた。一番重要な問題についてまだ話していない。
「今日先生が呼びに来たのは、一体何だったんだ?」
 バイロインは頭を少し振り返った。「今日お前がここにいるのは、俺にそのことを聞くためだったんだろ?」
「違う。お前が心の中に留めておこうと我慢しているのが嫌だったんだ。」

 バイロインには不可解な気持ちが湧き上がっていた。以前は、グーハイの自分に対する意図を疑っていた。彼が自分を目の敵にしていた時は、積年の恨みを晴らすかの如く様々な工夫を凝らしては挑んできた。しかし、関係が良くなってからは前世の借りを返すかの如く打って変わった。今日のことについても、バイロインは自分の中でうまく隠していたと思っていた。誰にも気づかれることなく、バイハンチーですら疑いを持っていないのに、グーハイにだけは気付かれた。
 時々、バイロインはグーハイが神経病のようだと思っていたが、それに直面するときはいつも不思議と言い表せない信用がある。もし、あの夜、酒に酔って本音が出たのが偶然なら、今この思いを吐き出したい衝動も同じで、騙すことはできないのだろう。
 かつて何を疑っていたとしても、今となってはもう重要ではない。気心の知れた友人が必要だ。

「母親が再婚したことは言ったっけ?」
 グーハイは頷いた。「ああ。」
「今日、その男が会いに来て、一緒に暮らさないかと言われた。」
「承諾したのか?」
 バイロインは問い返した。「俺が承諾すると思うか?」
 さすが俺の“兄弟”(ここでは義兄弟のことではなく、同志的な意味合いだと思われる。)だ!……グーハイは、自分たちは同じような境遇にあり、共に敵に立ち向かうべきだと、ひそかに確信した。

「一番受け入れられなかったのが、その男の口ぶりだ。俺と自分の息子を比べて、俺がどれだけ世間知らずなのかを際立たせては、息子のことをべた褒めさ。知ってるか?俺は勿体ぶった言い方をする人間が大嫌いなんだ。まるで世の中の人が皆、彼の指示を聞く手下であるかのように思ってるんだ。」
 クソだな。グーハイはシーツを引っ張った。その話は、本当に彼の心の奥底に触れて、やるせなかった。
「俺もそういう奴にはうんざりだ。相手にするな。」
 バイロインの声は落ち着いて、「あの口ぶりはマジで受け入れられなかった。」と言った。
「そんなにうんざりしたのなら、呪ってやれ。そいつの息子が明日車に轢かれて怪我してしまえとか。」

「バタン!」と音がすると、何かが壁の上から落ちてきて、グーハイの脚に直接当たった
「痛ぇーーー、何なんだ?」
 バイロインは急いで電気をつけた。
 壁に30年近く掛けられていた古時計が、今になってどうしたことか、突然グーハイの左脚の上に一直線に落ちてきた。もしグーハイの身体が丈夫でなかったなら、この15kgほどもある重さでその脚は怪我していただろう。
 グーハイは眉をしかめた。「お前がわざとやったんだろ~?なんで俺がここで寝た途端、落っこちてくるんだよ~?」

 バイロインは口を閉じられないほど爆笑した。少将だろうと継父だろうと、ほったらかしておいても問題はない。グーハイに起こったこの不運な出来事に比べたら些細なことだ。
 でも、この30年も壁に掛かっていた古時計が、事もあろうに何故彼に当たったのだろうか?



 第50話。
 きしむベッドの上で優しさを持ち寄った結果、大きなのっぽの古時計が落ちてきた。
 車に轢かれて怪我をしなくて何よりです。
 さて、お互いの心が核心に向かって触れ合ってきました。
 今後が気になりますね。
 そして、やっと50話。
 えーと、あと264話? ふむふむ、見なかったことにしよう(笑)。
 とりあえず、B'zでも聞きながら、現実を逃避しよう。そうしよう。
 つづく。


コメント

 コメント一覧 (1)

    • 1. くじら
    • September 22, 2020 00:37
    • ㊗️50話🎉

      これまでのご尽力に感謝します。

       月の光が彼の笑顔を照らし、誰かの心を酔わせた。

      B’zがハマりすぎ。最高👍
    • 0
      crosuke

      crosuke

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